蜂蜜酒とポーランド貴族 映画【ファイアー アンド ソード(火と剣とをもって)】が面白い
ノーベル文学賞の受賞者で、ポーランドの国民的作家、ヘンリク・シェンキェビチと言えば、日本では、ローマ帝国とキリスト教徒の受難を描いた「クオ・ワディス〈上〉 (岩波文庫)」が圧倒的に有名ですが、ポーランドではやはり動乱の17世紀を描いた【トリロジー(三部作)】が人気かな、という感じ。
シェンキェビチ・トリロジーと言えば、コサックの反乱を描いた『ファイアー・アンド・ソード』(ポーランド原題:『Ogniem i mieczem』)、スウェーデン軍の襲撃を描いた『POTOP(大洪水)』、主要キャラの一人、ミハウの活躍を描いた『Pan Wołodyjowski(パン・ヴォウォディヨフスキ)』、この三つを差し、第一作目の「ファイアー・アンド・ソード」はDVD化もされています。本編が1時間あまり削除されているそうですが。
どんな感じがちょっと見てみたい方は、ニコニコでどうぞ。
日本語訳された動画がアップされています。完全版ではないです。
【ニコニコ動画】With Fire and Sword Part1
正直、17世紀の時代背景を知らないと、誰と誰がどういう理由で闘っているのか、どうして敵の陣営で殺し合いにならないのか、理解しにくい箇所もありますが、「ヨーロッパの歴史物」と言えば、ナポレオンやマリー・アントワネット、エリザベス一世ぐらいしか見たことがないという方には、シュラフタ(貴族)のエキゾチックな衣装や毛皮をふんだんに使った冬の調度(これは今でもポーランドの暮らしに生きている)、土の匂いのする農家の暮らしや、Miód Pitny(蜂蜜酒)をはじめとする「飲めや食えや」のポーランドの食文化は、きっと新鮮に映ると思います。
中国やモンゴルの大陸文化を思い起こさせるタタール人の姿形や、お馴染みのコサックダンス、美しい小姓を抱えたトルコの王族など、見所も多く、CGをいっさい使わない肉弾戦のような戦闘場面は、歴史絵巻を見るようで、けっこう迫力があります。
いきなり『ロード・オブ・ザ・リング』のような魔女(?)が出てきて、未来予知をする場面はコケたけど、陽気な酒飲みの高僧ザグウォバや、力強い剣の使い手ボーダンなど、キャラも魅力的。
意外とスプラッタな演出も多く、「大陸の処刑は残酷~」な場面も多いけど、全体としては、好感のもてる作りになっています。
ポーランドの歴史と言えば、やはり第二次世界大戦、ドイツ侵攻やアウシュビッツの悲劇が取り上げられることが多いですが、ポーランドがもっとポーランドらしかった17世紀の動乱期も興味深いです。
忙しい人、難しい歴史書を読むのは面倒な人にはこちらの動画がおすすめ。
建国から1989年の自由化まで、ポーランドの歴史が10分で理解できます。
とてもクオリティの高い動画なので、ぜひご覧下さいね。
§ 蜂蜜酒文化から見る『ファイアー アンド ソード』
この作品はポーランド映画らしく、やたら飲食のシーンが多いです。
何メートルもあるテーブルに、所狭しと肉料理、パンや果物が並べられ、銀のゴブレットで乾杯。
この光景は、今もポーランドの暮らしの中に残っています(特に地方)。
そして、威勢の良いシュラフタ(貴族)の騎士が、Czarka(陶器のカップ)を掲げて、
「ミオディ(蜂蜜酒)を持って来い!」
樽いっぱいのMiód Pitny(ミュウト・ピトヌィ)を大きな陶器でガブ飲みするのを見ていると、「そんなに勢いよく飲んだら、倒れるぞ~」と声かけしたくなるほど。
http://sanmarie.me/video2/party.flv
ここに登場する恰幅のいいおじさんは「修道士ザグウォバ(zagłoba)」。
ポーランドでも人気のある架空のキャラクターの一人です。
日本の歴史物にたとえたら、弁慶か猿飛佐助、といったところでしょうか。
「気は優しくて、力持ち」のザグウォバさんは、Miód Pitny(蜂蜜酒)が大好きで、いつも腰にボトルをぶら下げ、景気づけにいっぱいやっていたとか。
お茶目で、友情に厚く、女性には騎士のように頼もしく優しい、とても魅力的なキャラクターであり、今でも「ザグウォバ」の名前を冠したバーやレストランも少なくありません。
この作品を観ていると、蜂蜜酒がポーランドのみならず、コサック、タタール人など、東欧からロシアにかけて、幅広い地域で愛飲されていたのがよく分かります。
こちらは、ザグウォバさんと盟友ミハウが立ち寄った村の居酒屋で、宿敵ボフンとタタール人に出くわす場面。
村娘と居酒屋の主人が、勺のようなもので陶器のカメに蜂蜜酒を注ぎ入れ、ザグウォバさんが大きな声で「ミオド!」と注文します。
村娘が注ぐ琥珀色の飲み物がMiód Pitnyです。
ポーランドの歴史や文化に深く根付いたMiód Pitny(ミュウト・ピトヌィ)。
いつかあなたのお家にも、豪快なザグウォバさんがやって来て、「ミオド!」とリクエストするかもしれません。
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