言葉の違い
彼の会社のホームページの翻訳をしながら思ったことです。
私たち日本人が英語やポーランド語を理解するのは簡単だけど、欧米言語圏の方が日本語を理解するのは非常に難しいのではないかな、と。
誰しも、自国の言語は世界一、そう簡単に理解されてなるものか、みたいな自負や誇りがあるものですが、日本語はやっぱり複雑多様という点で群を抜いているような気がします。
たとえば、助詞や助動詞。
英語なら「I am a Japanese」の一言が、
「私は日本人です」
「私は日本人だ」
「僕は日本人だよ」
「俺、日本人」
「あたくし、日本人ざます」
「あたい、日本人だもん」
・・いろんなバージョンがありますよね。
また尊敬語と謙譲語も難しいものです。
英語なら「Do you eat something ?」の一言が、
「なんか食べる?」
「何か食べますか?」
「何か召し上がりますか?」
「何か食うかぁ?」
・・これもいろんなバージョンがあります。
もちろん、英語にも、
「Open the window」という命令形の他、
「Please open the window」という丁寧語、
「Could you open the window?」もう少し丁寧度な言い方
「Would you mind opening the window?」という最高に丁寧な言い方まで、いろんな形がありますが、日本語はさらに輪を掛けて、
「窓を開けろ」
「窓を開けてよ」
「窓、開けてぇ」
「窓を開けてもらえない?」
「窓を開けてくれるかい?」
「窓を開けて下さい」
「窓を開けて頂けませんか」
「窓を開けて頂けないでしょうか」
「窓を開けて下さったらありがたいのですが」
・・状況や話し相手によって、複雑に変化します。
更に若者言葉や方言が加われば、もう何が何だか分からないですよね。
以前、「私は車を運転します」と「僕は車を運転する」の違いは何かと聞かれて、理解させるのにずいぶん骨が折れました。
「です、ます調」と「だ、である」調の違い、私と僕の使い分け、「運転しません」と「運転しない」の違い・・等々、主語による使い分けが「drive」「drives」の2種類しかなく(現在形に限れば)、「don’t」あるいは「not」「never」で簡単に否定語が作れてしまう英語圏の方にとって、状況や話し相手によっていろんな形に展開する日本語は、本当に難しいと思います。
また文法が全く違うのも日本語ならでは。
「I drink wine」を日本語風に並び替えると「I wine drink」
多くの言語が 『主語+動詞+目的語あるいは補語』と並ぶのに対し、日本語は、主語から動詞の間に、いつ、誰と、何を、どこで、どんな風に、ありとあらゆる言葉が数珠のように連なります。
英語を習いたての日本人が、「I drink ・・・・」で止まってしまうのは、「私は昨夜、田中さんと一緒に駅の近くのレストランでパリ直輸入の美味しいワインを飲みました」という文章を、いったん
「I,last night, miss Tanaka, together, the station, near ・・・・」という英単語に置き換え、それから英語の文章に作り直すからではないでしょうか。
フランス語から英語、あるいは英語からスペイン語に移行するのが簡単なのは、多くの言語が『主語+動詞+目的語あるいは補語』といった文法が共通していて、日本語から英語に移行する時の文法の引っ掛かりが無いからだと思います。
外国語圏の人に日本語の細かなニュアンスや用途の違いを説明するのは、本当に大変、本当に疲れます。
今回、ホームページの翻訳をするにあたって、彼の方からいろいろ注文を受けたのですが、とにかく、日本語は、状況や話題よって言い回しが複雑に変わるから、直訳は出来ないよ!という主張を押し通しました。
英語だと「You」の一言で済んでも、日本語では、相手が「お客様」か「同僚」かによって使う言葉が完全に違ってきますからね。
おまけに今はビジネス用語やJapanese-Englishが氾濫して、どれを選ぶかも難しいところ。
「お客様」とするか、「ユーザーの皆さま」とするか、「カスタマー」とするか、「利用者の方々」とするか、一言違うだけでずいぶん印象が変わってくるでしょう。
それに「distributed network」も、直訳すれば「分散したネットワーク」だけれど、今はしっかりコンピューター用語に確立されていて、「分散型ネットワーク」と記さねばならないのです。
また「solution」という言葉も、直訳すれば「解決策」ですが、今では、「金融ソリューション」とか「メディア・ソリューション」とかいう風に、Japanese-Englishとして当たり前のように使われていたり・・・。
直訳の翻訳の違い、また翻訳の難しさを改めて知った感じです。
「辞書の通りに訳せばいいじゃないか」なーんて言う彼に対し、私は何度「違うんだってば!」を連発したことか。
日本人には日本人好みの表現や言い回しがあるもの。
お客様を「You」呼ばわりした日には、顧客なんてみーんな逃げてしまうでしょうよ。

