ペンションAKIKO

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ワルシャワでもクラクフでもなく、ポーランドをはるか南に下った所、スロヴァキアとの国境に面した山岳地帯ZAKOPANE(ザコパネ)をご存じでしょうか。
ポーランドとスロヴァキアの国境をまたがるように、2000メートル級の山々が連なるタトラ山脈は、さしずめ東欧のアルプスといったところ。
今はかなり観光化されて、ポーランド国民の心のオアシスから、東欧随一の山岳リゾートに変わりつつありますが、見る者を圧倒するような山並みと神秘的なカルデラ湖、澄んだ空気と眩いばかりの緑は、山など見慣れている日本人にとっても心洗われるような美しさです。

そのZAKOPANEから少し離れた所――ZAKOPANEの玄関口とも言うべきNowy Targ(ノヴィタルグ)からさらに東に位置するHalklowa(ハルクロヴァ)という小さな村に、日本人一家が経営する素敵なペンションがあります。
オーナーの三和明子さんと、娘さんの"のぶさん"は、ポーランド在住10年以上の大ベテラン。地元の人でも行かないような丘陵の高台を独力で切り開き、二年がかりでザコパネ方式と呼ばれる三角屋根のペンションを建てられました。
幹線道路からペンションに続く道は、四輪駆動でなければ上がれない、石ころだらけの険しい道ですが、ガタガタとお迎えの車に揺られ、『Pensjonat AKIKO』の看板を少し過ぎてから、ふと前を見上げると、深い緑が一気に開けて、温かく懐かしい木造作りの建物が目に入るんですね。

広々とした敷地には、屋外プールはもちろん、バーベキュー・セット、ベンチ、アーチェリー場などがあり、私も滞在中に生まれて初めてアーチェリーに挑戦しました。的には一回当たっただけですが・・・。

そして、緑の森を見渡せば、遠くに国立公園にも指定されている大きな湖が見え、はるか彼方には、立山連峰を彷彿とさせるようなタトラ山脈の山並みが。「平原の国」ポーランドとは思えないダイナミックな風景に嘆息することしきりでした。

ポーランドも、ワルシャワやクラクフのような観光都市を除けば、どこへ行ってもだだっ広い平地が延々と続くばかりで、確かに緑は美しいけど、単調な風景に飽きがくるのもまた事実です。

とりわけ、山に囲まれて育った日本人には、山のない景色など夏のスキー場みたいに味気なく、山を見ずに何ヶ月もいると無性に山が恋しくなるんですね。

かといって、日本のように、ちょっと車を飛ばせばそこに山がある――という訳でもないので、「山を見たい」と思っても簡単には実現しないのがポーランド。

そんな中で、タトラ山脈はもちろん、空に照り返すような湖までも一目で見渡せる場所がどれほど豊かで恵まれているか、これはもうポーランドに一度でも住んだ経験のある人でないと、なかなか分からないのではないかと思います。

そんな素晴らしい敷地にペンションを構える三和さんご一家。
私が滞在した時には、お母さんの明子さんと、娘さんののぶさんと二人だけだったのですが、明子さんはこのポーランドで三人の子供さんを育てられた立派なお母様。
同じ日本に居たって、三人も子育てするのは大変でしょう?
それを異国ポーランドでやり遂げられたのだから、尊敬する他ない。
私なんか、彼に「おんぶに抱っこ」で暮らしていてもヒイヒイ言ってるのだから、その努力、気迫、根性にはほんと頭が下がるばかりです。

そんな明子さんと、高校時代にポーランドに移られた三女ののぶさんのお話は、ひと言ひと言が胸に染みるものばかり。
日本人がポーランドで暮らす大変さはもちろん、ポーランド人との付き合い方、生活の工夫や楽しみ方など、いっぱいアドバイスを頂いて、それまで萎みがちだった気持ちが一気に花開きました。

正直、異国で暮らす大変さは、同じ異国に暮らす日本人同士にしか解らないもの。異国で生活して何が一番苦しいって、ストレスが溜まった時、そういう気持ちを分かち合える親兄弟や友達が側にいない事なんですね。

たとえば国際結婚で異国に来て、彼や彼の家族、友人諸君にどんなに可愛がられても、やはり、癒しきれないものがあるのです。

特にポーランドに住む日本人の数は、アメリカや欧州先進国に比べればまだまだ数少ないですし、まして私のようにワルシャワでもクラクフでもない、辺境の1都市に住む者が、込み入った話のできる友達を見つけるのは至難の業。

そんな中で、車で3~4時間ほど走った所、しかも懐かしい山並みの見える場所で、三和さんご一家に会えたのは本当に幸運でした。

白いご飯はもちろん、ふろふき大根、野菜の天ぷら、巻き寿司、ニジマスの塩焼き(近くに流れる河がニジマスのメッカとか)など、温かい和食のもてなしに、手作りのジャムの朝食、日当たりのいいサンルームにはジャグジー、サウナ、屋内プールもあって、時間の経つのも忘れてしまうほど。

また、落ち着いた作りのリビングルームには、日本語の本や雑誌、漫画がたくさんあって、天気の良い朝には、南向きのデッキで紅茶片手に読書と、本好きにはまさに至福の時。
その上、カラオケやゲーム、ビデオやオーディオも揃っていて、日本からお客様があればカラオケ大会も楽しめるという、至れり尽くせりのサービスなのです。
しかも辺り一面森に囲まれている為、星空の美しさも半端じゃない。
時には、ほんの数分間に10個以上の流れ星が見えるほど。
私も国内外問わずあちこち旅行しましたが、ここまで「心地良いもの」が揃った所も初めてでした、ほんとに。

そうして、のんびりと、本を読んだり、ジャグジーにつかったり、明子さんやのぶさんとビールを飲みながらお話するうちに、私がポーランドに来てからずっと忘れていた事――「自分自身を楽しむ」という事を、しみじみと思い出したんですね。
それまでは、こっちの生活に馴れよう、人や習慣に合わせる事ばかりに気を取られ、「自分の気持ち」とか「自分のやり方」みたいなものを、すっかりどこかに置き忘れていたのです。
このあたりが、いかにも『日本人らしい』のですけど、「あの人の為」「この人の為」という気持ちはやっぱり長続きしないし、いつの間にか被害者的な気持ちを増長するのも事実です。
たとえば、言葉一つ覚えるにしても、「あの人と話さなければならないから」覚えるのと、「あの人と話したいから」覚えるのでは、やる気の上で雲泥の差があるんですね。

前に、ワルシャワ在住の日本人女性とお話する機会があったのですが、
「『なんで、私が、あの人達の為に、あの人達の言葉を学ばなければならないの』と思った」
と仰ってました。
同じ人間として接しながら、片や、相手の言葉を覚える為に必死に勉強し、もう片方は、何の努力も必要とせず、ただ「話せる」というだけで心理的に優位に立っている――そうした気持ちの上での不公平感、犠牲者意識は、どんなに一見識持った良心的な大人でも、そうそう拭いきれるものではありません。
その女性がしみじみ仰ったように、私も同じものを感じていました。
そして、「なぜ私たちだけが」という気持ちがある限り、言語など決して自分から勉強できるものではないのです。仕事や学業で絶対的に必要とされない限り。

ところが、生き生きとポーランド語を話す明子さんやのぶさんの姿は、私のこうした鬱屈したストレスを一気に吹き飛ばしてくれました。
確かに、響きは和風だし、話すテンポも、TVP(ポーランド放送)のニュースキャスターに比べれば京女のようにおっとりしているかもしれない、それでも、ポーランド語という世界屈指の難解な言語を朗らかにお話される姿は、不公平感や被害者意識とは全くかけ離れた清々しいものだったのです。
それは、「あなたもしっかり勉強すべきよ」とか「ポーランドで生きていく覚悟があるの」とか、分かり切った事をくどくど説教されるより、はるかに説得力のあるものでした。
明子さんとのぶさんのポーランド語は、ただ聞いているだけで励まされ、力付けられるような、澄んだ響きがあるんですね。
それは、ありそうで、なかなか無いんですよ。

ともあれ、明子さんとのぶさんに元気のパワーを分けてもらって、幸せな気分で帰ってきた私たち。
滞在中は、夏がぶり返したような好天気で、大カスプロヴィ山への単独登頂(?)も、憧れのモルスキ・オコ(海の瞳の湖)散策も、本当に素晴らしい思い出になりました。
ポーランドと言えば、ワルシャワ、クラクフ、アウシュビッツ収容所あたりが観光のメインですが、名所巡りに飽きたら、ぜひ南のザコパネにお出かけ下さい。
そして、出来るなら、ポーランドで一番豊かな憩いの場所、Pensjonat AKIKOに足を運んで、誰もが勇気づけられる明子さんのお話と、溌剌としたのぶさんの笑顔に会ってみて下さいね。

- ペンションAKIKO -  http://www.akiko.pl/

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記:03/09/25 (木)


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